借金が返済できず自己破産を検討している方の中には、携帯電話が利用できなくなるのではと不安に感じている方も多いと思います。
自己破産は、借金の返済が困難になった際に法的に救済される手続きの一つですが、自己破産をすることで、生活のさまざまな部分に影響が出ることも事実です。
その中でも、日常生活に欠かせない「携帯電話」についても注意が必要です。
携帯電話は生活必需品のため、利用できなくなると家族や友人と連絡が取れないのみならず、仕事で利用している場合は業務に支障が出ます。
自己破産において、携帯電話にどのような影響があるのか、契約の継続や新規契約はどうなるのか、またキャリア決済の影響についても知っておくべきです。
特に携帯端末の分割支払い、キャリア決済の滞納がある場合には問題が生じることが多いです。
自己破産と携帯電話の契約について
自己破産とは?
自己破産とは、消費者金融、クレジットカード、携帯電話会社の借金・未払金が膨れ上がり、支払いが困難になった場合に、裁判所を利用して、債務から解放される法的手続きのことを指します。
財産を持っていない、または保有財産では返済が不可能なほど多額の借金を抱えた場合によく使われます。
ちなみに自己破産をすると、家や車などの一定の資産は処分されますが、その見返りとして借金がチャラ(免責)となり、借金問題から解放されます。
自己破産すると携帯電話の契約はどうなるの?
自己破産をすると、携帯電話の契約にも影響が出る可能性があります。
端末を分割払いにしていたり、携帯電話料金の滞納がある場合、その債務も破産手続きに含まれ、債権者として携帯会社を申告する必要があります。
そうなりますと携帯の通信料金や端末の分割払いが免責されることになりますが、契約中の電話回線が強制解約されるリスクがあります。
さらに自己破産前に利用していたキャリア決済の未払いがある場合、それもまた破産手続きに含まれるため、キャリア決済の利用もできなくなります。
自己破産を検討している場合、現状の契約の状況、料金未納の有無、キャリア決済の使用状況について把握しておくことが重要です。
自己破産と強制解約の関係
そもそも自己破産をしたらもれなく全員の携帯電話が強制解約になるわけではありません。
しかし自己破産によって携帯電話会社が債権者となる場合には、強制解約になる可能性が高いため注意が必要です。
携帯電話会社が債権者となる場合は次のとおりです。
1.携帯電話料金の滞納がある
多くの方は携帯電話料金をクレジットカードで支払っていると思いますが、自己破産をするとクレジットカードの利用が基本的にはできなくなります。
そのため携帯電話料金をクレジットカード払いのままにすると、携帯電話料金の支払いができないため、これまでクレジットカードで支払いをしていた方は、支払い方法を現金引き落とし等に変更していただく必要があります。
気が付かないうちに携帯料金を滞納してしまい、利用できなくなる場合もありますので、クレジットカード払いにしている方は気をつけてください。
2.スマホ端末代を分割払いにしている
スマートフォンが高額なことや大半の携帯電話会社が分割手数料を無料に設定していることから、新しい端末を購入したときや機種変更したときには、携帯端末の代金を分割払いにしている方は多いと思います。
分割金額は携帯の月額の基本使用料に上乗せして請求されるため、分割払いにしていることすら忘れている場合も良くあります。
ただ、端末の分割払いはローンを組んで買っているのと同じことです。
携帯電話会社から端末をローンで購入し、毎月少しずつ返済しているということです。
そのためここ数年の自己破産の実務においては、債権者の中に携帯電話会社が含まれることが多くなっております。
自己破産手続きに組み込むと基本使用料や端末代金を支払う必要はなくなりますが、通常そのキャリアの携帯電話が利用できなくなります。
ただし、月々の携帯利用料をきちんと払っていた場合、端末代金と月額費用を分けて、端末代金のみ破産債権として取り扱う携帯電話会社もあります。
継続して月額費用と端末代金を支払えば、契約は解除されずに使い続けられます。
3.家族契約で主回線の契約者が破産している
家族割の割引サービスが受けられるため、家族のどなたかの名義でまとめて携帯電話を契約している方も多いと思いますが、場合によっては携帯電話が利用できなくなります。
主回線の契約者が強制解約となった場合
基本的に主回線の契約に紐付いて家族の回線が契約されているため、主回線を解約すると他の回線も解約となります。
例えば父が主回線で、配偶者と子どもが子回線として携帯電話を契約している場合、父親が自己破産で契約解除されると、配偶者と子どもの回線も解約となります。
なお、携帯会社によっては、主回線の契約者の名義変更を許してくれる場合もあります。
その場合には、名義変更すれば使い続けられるため、自己破産前に携帯電話会社に確認すると良いです。
破産する方以外が主回線の契約者の場合
破産する方が主回線の契約者でなければ、ほかの家族は問題なく使い続けられます。
先ほどの例とは逆に主回線の契約者が母親で、父親と子どもの携帯電話を契約している場合、父親が自己破産しても母親と子どもは携帯電話の利用を続けられます。
新規契約の可否
自己破産しても携帯電話の新規での契約は可能です。
ただ、新規に携帯電話会社と契約をする際に、携帯電話会社から新規契約を断られることはあり得ます。
というのも、自己破産後「事故情報」としてCICなどの信用情報機関に登録されるため、新たに携帯電話、スマートフォンの契約を検討する場合、その閲覧権限を持つキャリア(docomo、au、ソフトバンク等)から契約を拒否される可能性があるからです。
ただ、その多くの場合は、端末を分割払いで契約したときに発生しますので、端末を現金で一括払いしてしまえば、契約ができるケースは多いです。
破産前の契約状況次第で再契約が困難なこともある
上述の通り、端末代を一括で支払ってしまえば、新規契約ができるケースが多いですが、状況によっては再契約できないケースがあります。
というのも携帯電話特有の問題として「携帯ブラック」と呼ばれる滞納情報が「TCA」に登録されます。
TCAは電気通信事業者協会の意味で、多くの携電話会社が協力して情報を共有しています。
そのため、TACに登録されている期間は、新規で契約を申し込んでも受け付けてもらえない可能性はあります。
新規契約しなければいけなくなった時は
携帯電話は生活必需品であり、利用できないと日常生活に支障が出ます。
自己破産により契約を解除された方が、新規で契約する方法をいくつか紹介します。
家族の名義で携帯電話会社と契約してもらう
家族に協力を得て、携帯電話会社と契約してもらうことで携帯電話を利用することができます。
債務整理開始前までに滞納がない場合には、MNP(携帯電話番号ポータビリティ)や名義変更することができる場合があります。
破産手続きが終了するまで、名義を貸してもらうのも一つの手です。
ただし、あとで問題にならないように利用料の支払い方法について家族ときちんと話し合っておくことが重要です。
特に家族の協力が得られず、彼氏・彼女、友人、知人の名義を借りた場合、月額費用を滞納すると、貸してくれた人に迷惑がかかります。
最悪の場合、名義を貸してくれた方との信頼関係が壊れるばかりか、信用情報を傷つけてしまう可能性すらあります。
契約時に預託金制度を利用する
携帯電話会社のうち大手キャリア(docomo、au、ソフトバンク)には、預託金と呼ばれるお金を預けると携帯電話を契約できる制度があります。
預託金は契約する際に一定額のお金を担保として預けることで、信用力を回復できる仕組みです。
預託金制度は、契約の途中で支払いが滞納している状態でも預託金から支払われるため、携帯電話会社が損失を出すリスクを減らせます。預託金制度では、契約時に5〜10万円程度を預けることが一般的です。
格安SIM会社と契約する
TCAに登録されると、大手キャリアとの新規契約は難しくなります。
しかし格安SIM会社はTCAに加盟していないことがあり、信用情報が共有されていないため、新規で契約できる可能性があります。
なお、月額費用の支払いがクレジットカードのみというところも多いので、破産を検討している方は利用できないということもあります。
ただ、VISA、MASTER、JCB加盟店で利用できるデビットカードもあるので、そういったものを発行して契約すると良いでしょう。
デビットカードは、利用した料金が即座に銀行口座から引き落とされるシステムです。クレジットカード会社からの審査がなく利用できるため、自己破産した方でも申し込み可能です。
キャリア決済に関する注意点
キャリア決済とは?
キャリア決済とは、携帯電話会社が提供する決済サービスの一つで携帯電話の利用料とほかのサービス料をあわせて支払う方法です。
利用者は、docomo、au、ソフトバンクなどの携帯電話会社の請求に含めて、インターネット上で商品やサービスを購入することができます。
スマートフォンひとつで簡単に支払いができるため、非常に便利ですが、クレジットカードのように後払いとなるため、銀行口座にお金がなくても決済でき、便利に利用できる反面、支払日までにお金が用意できなければ未払いになります。
キャリア決済は携帯電話会社からの借入れになるため、滞納した場合、信用問題が発生しかねません。
キャリア決済が自己破産に与える影響
キャリア決済は、非常に便利な支払い手段ですが、自己破産する際には特別な注意が必要です。
例えば、キャリア決済で購入した商品やサービスの支払いが未納のまま自己破産をすると、携帯電話会社が債権者として申告されることになります。この場合、信用情報に事故歴として記録され、新規契約が難しくなる可能性があります。
特に、CICなどの信用情報機関にこの情報が登録されると、docomo、au、ソフトバンクでの新規契約も制限されることがあります。
また、キャリア決済を利用して現金化を試みた場合、これは詐欺罪に該当するリスクがあるため、絶対にしてはいけません
自己破産によって未払いの債務が免責されるとしても、トラブルを避けるためには、キャリア決済の利用は慎重にしなければなりません。
携帯電話を維持したいのであれば携帯電話会社からの信頼を失わないことが重要になり、キャリア決済は利用しない方がよいでしょう。
キャリア決済以外の決済方法
PayPay、LINEPayなどのアプリを支払い時に利用している方も注意が必要です。
自己破産手続きにおいては、クレジットカードと連動したサービスは利用できなくなります。
なお、現金をチャージするようなプリペイド形式であれば利用可能なため、どうしても電子マネーを利用したい方はそういった方法を活用してください。
自己破産と携帯電話に関するQ&A
自己破産しても携帯は使い続けられる?
携帯端末の分割払いが完済しており、月額費用の滞納がなければ、引き続き契約中の携帯電話を使い続けることは可能です。
上述の通り、通信料金の滞納や未払いがある場合、その分については破産手続に含まれるため、債権者として携帯会社を申告する必要があります。
その結果、料金未納による強制解約が行われることがあります。
また、携帯キャリア決済の滞納がある場合も同様に影響を受ける可能性が高いです。
スマートフォンは差押対象?
自己破産の際に高価な財産は換価されますが(※お金に換えることです。)、20万円以下の物は対象になりません。
携帯電話は20万円以下の場合が大半であるため、差し押さえられる心配はないと考えてよいです。
ちなみに20万円を超えていたとしても、価値の基準は購入した時点の金額ではなく時価となるため、20万円以上の価値がある携帯電話を保有している方はいないといえます。
また生活必需品は差し押さえられません。
現代では、携帯電話はなくてはならない物であり、生活必需品と考えられるため、携帯電話を差し押さえられるケースはほぼないと言えます(なお、携帯電話の詐欺事案も関係していて、複数の端末を持っている場合は別です。)。
携帯電話会社だけ支払えばよいのでは?
自己破産した際に携帯電話料金の滞納や端末代金の未払いがあると、高い確率で契約解除となります。
そのため、携帯電話会社だけは払ってしまえば良いのではと考える方も多いです。
しかし、自己破産手続きでは、すべての債権者を平等に扱わなければいけない「債権者平等の原則」というものがあり、特定の債権者にのみ借金を返済することを、偏波(へんぱ)弁済と呼んで禁止されています。
債権者平等の原則に違反すると、自己破産が認められないケースや、借金の返済義務がなくならないケースがあります。
偏波弁済にならないよう注意しましょう。
携帯電話が解約されるなら自己破産しない方がよい?
自己破産は、原則として全ての債権者を対象として行います。
借金が多額で返済の見込みが立たない場合は、携帯電話が解約されても自己破産した方がよい場合もあります。
携帯電話について上述の方法で新たに契約できる可能性がありますので、携帯電話が解約されるなら自己破産をしたくないと考えるのはもったいないです。
なお、自己破産と似た手続きに任意整理があります。
任意整理は月額返済額を減らしたり、利息を軽減することができます。
任意整理を利用する場合、整理したい借金を選択できるため、携帯電話の月額費用滞納分や端末代金の分割払いを借金から外せば、携帯電話の契約解除を回避できます。
ただし、滞納が続くと自己破産をせずとも契約解除となります。
任意整理で借金返済の目途がたつのか、状況に応じて自己破産か任意整理かを選択することが重要です。
まとめ
自己破産が携帯電話の利用に与える影響について考える際、重要なポイントをまとめると以下の通りです。
自己破産によって通信料金や端末代金の滞納が免責されることで、既存の携帯契約が解除されるリスクがあります。
また、自己破産後の新規契約については、信用情報が反映されるため携帯会社から断られる可能性が高いです。
キャリア決済を利用している場合、その支払い状況が自己破産手続に直接影響することがあるので注意が必要です。
現金化など不正利用があった場合、詐欺と言われる可能性もあります。
携帯電話を使い続けるために誤った方法をとると、借金がチャラにならなくなる可能性があります。
自己破産に関する手続きや携帯電話を利用し続けるための手段を行う際は、当事務所のような専門知識がある弁護士・司法書士に相談してください。
コメント